障害者スポーツボランティアとは

2024.03.28公開
「一人でも多くの子どもたちにスポーツの喜びを届けたい」という気持ちが原動力になっています
高津雄大さん

 ボランティア活動にご興味のある方に向けて、実際の活動の事例を交えながらボランティア活動の魅力をお伝えします。

 今回お話を伺ったのは、仕事の傍ら、作業療法士を目指して勉強に励んでいる高津雄大(たかつ ゆうだい)さんです。ボランティアを通じて障害のある子どもたちと接してきた高津さんに、ボランティアを続ける理由や活動をとおして学んだことなどをお聞きしました。

ボランティアを始めたきっかけを教えてください。

 13~14年前、アルバイト先の社長に誘われて、身体に不自由のある子どもたちを介助するキャンプボランティアに参加したことがきっかけです。そのキャンプは自分の意思で身体を動かすことができない脳性まひや筋ジストロフィーの子どもたちをサポートしながら一緒に旅行するというものだったのですが、彼らが楽しんだり喜んだりしている様子を見ているとこちらも嬉しい気持ちになり、その後も継続して参加するようになりました。活動をとおして気づかされることも多く、とても勉強になりました。

どのような気づきがありましたか?

 まず、ボールで遊ぶ、雪で遊ぶといった「動く喜び」を感じる原体験が、多くの障害のある子どもたちにはないことが分かりました。そのような喜びは生きていればごく自然に体験できるものだと思っていたので、とても衝撃を受けました。同時に、自分が健常者としてスポーツをとおして受けとってきた恩恵を障害のある子どもたちにどうやって還元していこうかと考えるようにもなりました。初級パラスポーツ指導員の資格を取得したり、作業療法士を目指したりしているのもこの考えが発端になっています。

障害者スポーツにはどのように関わっていったのですか?

 元々スポーツが好きでしたし、初級パラスポーツ指導員の資格を取得したこともあって、障害者スポーツのボランティアをいつかはやってみたいと思っていました。過去に東京2020パラリンピック競技大会で救護所のお手伝いをしたことはありましたが、直接的に障害者スポーツに触れたのは、TOKYO 障スポ&サポートで「地域活動参加型指導員育成事業(※1)」として募集のあったふうせんバレーボールのボランティアに参加したのが初めてでした。このイベントは今年の8月に行われたのですが、知的障害のある子どもたちと一緒にふうせんバレーボールを楽しむという内容で、キャンプボランティアの時と同様に子どもたちの楽しそうな姿が印象に残りました。

※1:「地域活動参加型指導員育成事業」の詳細はこちら

ふうせんバレーボールのボランティアをとおして、新たな学びはありましたか?

 子どもたちを引率している先生方の指導法がとても参考になりました。私たちと同じように遊んでいるように見えても、目はしっかりと子どもたちの行動を追っていましたし、声かけや指導を一人ひとりの個性に合わせて変えている点にもハッとさせられました。さらに、指導内容が子どもたちの自立を見据えたものであることにも感銘を受けました。例えば、子どもが社会上ルール違反になってしまうような行動をとってしまった際は、はっきりと「ダメだよ」とおっしゃっていました。その子が大人になって同じようなことをしてしまうことがないように、今の段階でやってはいけないことだと認識させていたのだと思います。

キャンプボランティアや障害者スポーツへの参加、そして作業療法士の勉強をとおして、障害のある人に対するイメージは変わってきましたか?

 はい、色々変化しました。まず、障害の種類は同じでも人によって個性やバックグラウンドは大きく違っていて、一括りで考えてはいけないことが分かりました。また、障害には身体や精神の機能に障害のある人を意味する「impairment(インペアメント)」と、施設やインフラのバリアフリー化が進んでいないために不自由を強いられている人を指す「disability(ディスアビリティ)」の2種類があることを知り、それを機に社会に対する問題意識が高まりました。「disability」に関しては専門学校の車いす実習で疑似体験をしたのですが、道路にちょっとした段差があるだけで動けなくなってしまったことがあったんです。その段差をなくせば不自由さを感じなくなる人は多いのに、社会全体から見ると少数派ということで見落とされがちなんですね。そのジレンマから、マイノリティの視点になって考える重要性にも気づかされました。

ふうせんバレー(地域活動参加型指導員育成事業)の様子
障害者スポーツのボランティア経験が、作業療法士の勉強に役立っているという実感はありますか?

 もちろんあります。専門学校の授業では、特に小児領域においては、他の人が障害のある人と接する様子を見学することはあっても、自分自身が直接触れ合う機会はないので、ボランティアでの経験がすごく貴重なものになっています。作業療法士になったら良い相乗効果が生まれるのではないかと期待しています。

今後はどのようにボランティアに関わってみたいですか?

 身体を動かして、汗をかいて、シャワーを浴びて、食事して、心地良い疲労を感じる。そういったスポーツの喜びを、一人でも多くの障害のある子どもたちに伝えられるような活動をしていきたいです。それを考えると、大きなイベントより地域レベルの小さなイベントの方が合っているかもしれません。また、身体が上手く動かせない人に動かし方を教えるなど、作業療法士の知識やスキルも少しずつ活用していきたいと思っています。

これからもTOKYO 障スポ&サポートを活用しようと思いますか?

 もちろんです。いったん登録すると定期的に案内通知(メールマガジン)が来て、その中から自分に合った活動を選べるので、とても便利で助かっています。また、私が参加したふうせんバレーボールのボランティア(地域活動参加型指導員育成事業)は、東京都障害者スポーツ協会の方が講師として来てくれて、活動前に知的障害のある子どもたちへの接し方をレクチャーしてくれるなどのフォローがあったことで、継続して利用したいと思うきっかけになりました。他のイベントでも同じフォローがあるとは限りませんが、TOKYO 障スポ&サポートを通して募集していることで、安心感はあると思います。

これから障害者スポーツのボランティア参加を考えている方に向けてメッセージをお願いします。

 1回きりの場合もあれば、継続して参加する場合もあると思いますが、関わり方がどうであれ、どのイベントにおいても一人ひとりのボランティアがキーパーソンであり、戦力であると思います。私自身はふうせんバレーボールのボランティアを経験して、そのことを実感しました。自分が役に立つかどうか不安で参加をためらっている人がいたら、まずは「参加するだけで十分」ということを伝えたいです。障害のある人への接し方に不安があれば、現場には経験のあるスタッフの方や先輩ボランティアがいてアドバイスなどしてくださるので安心してほしいです。私のように医療・福祉系の仕事を目指している人であれば、障害者スポーツに触れた経験は仕事にしっかりと生きてくると思います。

【インタビューを終えて】

 平日の昼間はフルタイムのお仕事、月曜日から土曜日の夜は作業療法士の専門学校。このようなハードなスケジュールをこなしている高津さんは、毎日が「眠気との戦い」とのことでしたが、疲れた様子など微塵も感じさせず、生き生きとインタビューに応じてくださいました。その元気を支えているのは、「一人でも多くの障害のある子どもたちを笑顔にしたい」という熱い思いではないでしょうか。近い将来、作業療法士としての知識を生かしつつ、多くの子どもたちにスポーツの喜びと笑顔を届けてくれることでしょう。