大森恵子さん
ボランティア活動にご興味のある方に向けて、実際の活動の事例を交えながらボランティア活動の魅力をお伝えします。
今回お話を伺ったのは、中級パラスポーツ指導員の資格を持ち、水泳の指導をはじめ様々なかたちで障害者スポーツの活動に参加されている大森恵子(おおもり けいこ)さん。今回は、ボランティア活動を継続するモチベーションや今後の抱負、さらに障害のある人とのコミュニケーション方法についてもお話しいただきました。
ボランティア活動にご興味のある方に向けて、実際の活動の事例を交えながらボランティア活動の魅力をお伝えします。
今回お話を伺ったのは、中級パラスポーツ指導員の資格を持ち、水泳の指導をはじめ様々なかたちで障害者スポーツの活動に参加されている大森恵子(おおもり けいこ)さん。今回は、ボランティア活動を継続するモチベーションや今後の抱負、さらに障害のある人とのコミュニケーション方法についてもお話しいただきました。
30代の頃、主人の仕事の都合で北海道の小樽に住んでいたのですが、次男が通っていた幼稚園に聴覚障害のあるお子さんがいたんです。そのお子さんやご家族と親しくさせてもらっているうちに手話を学びたいと考えるようになり、平成8年の東京への引っ越しを機に本格的に手話を学び始めました。その後、友人の紹介で江戸川区にある小岩特別支援学校の生徒さんたちに水泳を教えることになったのですが、これがボランティア活動を熱心にやるようになったきっかけです。
やりがいは感じていますが、少なくとも「支援」という感覚はないですね。ただ一緒にいて楽しいから続けている感じです。そのため、私からすると指導員と生徒という関係はしっくりこなくて、子どもたちとは常に同じ目線で向き合っています。私は子どもたちのことを可愛いと思うし、子どもたちも私を好いてくれる。だから楽しくて続けられる。理由はとてもシンプルです。
障害のあるお子さんは、感覚が鋭くて感じたことをストレートに言葉にすることが多いですね。特に知的障害のお子さんがわかりやすくて、「嫌なものは嫌」「嬉しいことは嬉しい」と正直に言います。以前、不機嫌な表情をしていたお子さんが、私がそばにいることに気付くと急に笑顔になり、手を繋いでくれたことがありました。彼らは見た目など表面的な部分ではなく、人となりで好き嫌いを判断します。ですから、彼らに好意を示されると、自分という人間を好いてくれていると感じ、嬉しくなります。そして、ついつい「自分は人気者だ」と自画自賛したくなるんです(笑)。
水泳指導でのエピソードですが、何度も途中で泳ぐのをやめていた知的障害のあるお子さんが25mを泳ぎ切った時は、あまりに感動してお母さんと抱き合って泣きました。そのお母さんが喜ぶ姿が、今でも脳裏に焼き付いています。
自分から心を開いて信頼関係を築くことが何より大事だと思っています。そのためにも、周りからの情報を鵜呑みにせず、相手とのコミュニケーションで得た情報を信じることにしています。他人からの情報だけでは、相手の人となりを正しく判断できない気がするんですね。私には聴覚障害のある知り合いが多く、主に手話でコミュニケーションをとっていますが、必要最低限の大事な情報しか伝えないようにしています。なかには、自分に必要のない情報まで知りたいとは思っていない方もいらっしゃり、そのような方には「知りたいことがあればこっちから聞くから」と逆に言われてしまいます。そういうやり取りをとおして、私の方がコミュニケーションの在り方を教えられています。
そうですね。ボッチャやアーチェリーの大会ボランティアをしたこともありますし、サウンドテーブルテニス(※1)には審判として関わっていました。私はとても好奇心が旺盛で、ルールを知らない競技でも気になればすぐに申し込むんです。ルールを知らないまま記録係を務めたこともありますが、教えていただいているうちにだんだん分かってきます。とにかく、ボランティアを通じて色々な人と会えるのが楽しくてしょうがないんです。
※1:サウンドテーブルテニスは全国障害者スポーツ大会の競技のひとつで、視覚障害者が行う卓球です。球の中に金属の球が4つ入っていて、その音を頼りにプレーします。
色々なことを学べる点ですね。壁を作らないで気持ち良く障害のある人に接しているボランティアの方を見ると、「素敵だな。真似してみようかな」という気持ちになりますし、自分と異なるアプローチをするパラスポーツ指導員の方を見ると、参考にしようと思います。とはいえ、ボランティア同士の出会いは基本的に一期一会で、同じ人と違う現場で遭遇することってあまりないんです。初対面同士が一つのことを協力してやり遂げ、達成感を味わいながらも、活動が終わればさらっとお別れする。その適度な距離感がいいなと思っています。
かつては週5日でボランティアに参加した時期もありましたが、体力が衰えてきた今は週1日くらいがちょうどいいと思っています。参加するのは心身ともに元気で、好奇心旺盛な時だけ。力仕事もきつくなってきたので、そこは無理せず周りの方にお願いする。そうやってボランティアを楽しんでいます。
「役に立つ」という発想だと、どうしても成果を求めてしまいますよね?実際に活動する際に成果を求めすぎると、「自分は何もしなかった」と悔しい思いをするかもしれません。ですから、「ボランティアは何かを他人と一緒にやることであり、参加するだけでも十分意義のある活動だ」と考えた方がいいと思います。
2025年の「東京2025デフリンピック」に何らかのかたちで関わりたいと思っていまして、今は国際手話を勉強しています。もし、手話を使って会場を案内するボランティアがあればぜひやってみたいですね。あとは、一人でも多くの障害のある人が、スポーツに関われるようにサポートしていきたいと思っています。ただ、こちらから「スポーツはいいですよ。やりましょう!」と持ち掛けるのはただのお節介なので、相手が興味を持ってくれるまで気長に待ち、興味を持ったら即座に紹介できる。そんな状態を維持していきたいと思っています。
ボランティアへの想いを淡々とお話しされた大森さんは、障害者スポーツとは別に東京・江戸川区の手話サークルでも活動されていて、様々な活動を心から楽しんでいるご様子でした。ボランティアに関しては「嫌なことがあってもすぐ忘れる。良いことしか思い出せない」とのことで、このあっさりと前向きな向き合い方も活動を長く続けられる理由の一つではないかと感じました。ちなみに、お孫さんにもボランティアの楽しさや素晴らしさをお話しされているそうで、若い世代にもボランティアの輪を広げたいという大森さんの強い思いが伝わってきました。