障害者スポーツボランティアとは

2024.03.11公開
自分の障害がボランティア活動で生きてくる場面はきっとあると思います
宮澤初奈さん

 ボランティア活動にご興味のある方に向けて、実際の活動の事例を交えながらボランティア活動の魅力をお伝えします。

 今回お話を伺ったのは、感音性難聴(2級)の障害を持ちながら初級パラスポーツ指導員資格を取得し、障害者スポーツのボランティア活動に参加されている宮澤初奈(みやざわ はつな)さん。今回は、彼女が障害当事者としてボランティアの現場で感じたことや学んだことをお聞きしました。

ボランティアを始めたきっかけを教えてください。

 大学でパラスポーツ指導員の資格を取得できる選択科目があることを知り、障害者スポーツのボランティアに興味を持ちました。大学入学前にも障害者スポーツの大会に選手として参加したことはあったのですが、その時は自分と同じ聴覚障害のある方々としか交流がなく、少し物足りなさを感じていました。そこで、ボランティアという形であれば、他の障害をお持ちの方々と交流し、まだ経験したことのない障害者スポーツも体験できると思い、参加しようと決めました。

実際にボランティアを経験してみていかがでした?

 障害のある人、ない人を含め色々な方と交流し、多くの気づきを得ました。たとえば、聴覚障害と一口に言っても、一人ひとり聴力の程度が異なるうえに、「ろう」か「難聴」か、「手話者」か「口話者」か、「補聴器を着用するかしないか」など千差万別で、それぞれに物事の受け取り方もまったく違うことを知りました。私にとってボランティア活動は障害への理解を深める学びの場であり、そうやって知見を広げられることがやりがいにもなっています。

ボランティアで印象的なエピソードはありますか?

 2023年の8月下旬に東京都障害者総合スポーツセンターで開催されたスポーツ祭での出来事が印象に残っています。初級パラスポーツ指導員の資格取得後に初めて参加したイベントだったのですが、右も左も分からない私に先輩指導員の方々が、懇切丁寧に会場の案内や進行の説明をしてくれました。特に印象に残ったのが、「参加者だけでなく、ボランティア自身も楽しむことが大事」という言葉です。それまでは「ボランティアである以上、役割に徹しなければ」と身構えていたのですが、それよりも場の空気を和ませることが大事だと気づかされました。そうやって楽しむ気持ちでいたら、参加者の方々と笑顔で自然にハイタッチできた瞬間があり、それがすごく嬉しかったです。

ボランティアの場では色々な人と接すると思いますが、どのようにコミュニケーションをとっていますか?

 聴覚障害の当事者同士だと手話や口話で意思疎通できるのですが、そうではない人に対して、普段は音声アプリや文字変換アプリを使ってコミュニケーションをとっています。ただ、屋外だと雑音が入ってうまく変換できないですし、競技中だとなおさら使いづらいので、表情やジェスチャーでコミュニケーションをとろうと奮闘しているところです。今後は、ボランティアにしてほしいことを記載した紙を見せて、希望する項目を指差してもらう、というやり方も試してみたいです。そうやって色々なコミュニケーション方法を模索しています。

今後は、どのようなボランティアに携わっていきたいですか?

 やはり、パラスポーツ指導員の資格が生かせる活動が中心になると思います。大きな目標としては、2025年に東京都で開催される「東京2025デフリンピック」への参加です。これは、聴覚障害者のオリンピックと言われる国際大会で、大会を支える立場として国内外の方々と広く交流したいと思っています。できれば選手団のサポートを担当したいのですが、それ以外の役割でも十分楽しめると思います。そのためにも中級パラスポーツ指導員の資格を取得し、国際手話も習得したいと思い、今は勉強に励んでいます。もちろん、表情やジェスチャーでのコミュニケーションもどんどん磨いていこうと思います。

ボランティアに関する情報はどのように収集されていますか?

 「TOKYO障スポ&サポート」を見ることが多いですね。色々な情報が一覧できるので、すごく便利だと思います。私も普段は会社員として忙しく過ごしているので、日時や条件の合うボランティア案件を、スマートフォンですぐに探し出せるのはありがたいです。

ボランティアに興味はあっても、自分に障害があることで一歩踏み出せない人も多いと思います。そのような方々にはどのように声をかけたいですか?

 障害があることでボランティアの現場に行くことに不安を感じている方は多いと思います。そういう方は、活動の前にまずボランティア向けの研修を受けて感触をつかんでみてはどうでしょうか。実は私もコロナ禍でボランティア活動にブランクができてしまい不安だったので、東京都障害者スポーツ協会が開催する、活動への不安解消に向けた「リ・スタート研修会」に参加しました。その時の研修会には聴覚障害のある指導員の方もいらっしゃって、色々な話をしたことで一気に不安が払拭されました。そうやってワンクッション置いて参加する方法もありますので、自分に合ったやり方でボランティアを始めていただきたいと思います。

逆に、ボランティアの現場で障害を生かせることはありますか?

 あると思います。たとえば、私のように聴覚障害のある人は、基本的に目でコンタクトしようとします。つまり聴覚障害のある人の方が、より「見る」という行為に重点を置いているわけで、それはスポーツの場面で生きてくると思います。一例として、球技の場合、普通は声で合図してボールを回すと思いますが、距離があると実は声が聞こえていなかったり、誰が声を出したのか分からなかったりすることがあると思います。でも、「見る」ことを重視してコミュニケーションをとっていると、目はボールを常に追いますし、仲間の表情や動きを読み取ることで、コミュニケーションのエラーが起きづらく、よりスムーズに連携することもできます。このように障害が生きる場面はきっとあると思いますので、前向きな気持ちでボランティアに参加していただきたいと思います。

【インタビューを終えて】

 どの質問にも満面の笑みで答えてくれた様子から、宮澤さんがボランティア活動にやりがいを感じ、そこで出会った方々との交流を心から楽しんでいることが伝わってきました。平日は企業で働き、休日は関東ろう連盟青年部と一般社団法人埼玉県聴覚障害者協会青年部の活動に参加。その隙間を縫って、国際手話の勉強をする傍ら中級パラスポーツ指導員資格の取得も視野に入れるなど、忙しく過ごされている宮澤さん。そんな彼女のリラックス方法は、月1回ほど「何もしない日」を作ることと、仕事帰りに寄る「溶岩浴」だそうです。疲れた時はしっかり休み、楽しむ気持ちを忘れない。そうやってボランティア活動を続けていきたいと力強く語った宮澤さんは、2025年の「東京2025デフリンピック」でも大いに楽しみながら活躍してくれると思います。