障害者スポーツボランティアとは

2022.08.29公開
「与える」より「与えられる」。前向きになれるパワーをいただきました
佐原 由里子さん

 ボランティア活動にご興味のある方に向けて、障害者スポーツ事業の事例を交えながらボランティア活動の魅力をお伝えします。

 今回お話を伺ったのは、普段は看護師をされている佐原由里子(さはら ゆりこ)さん。数回のボランティア体験を経て、今年から本格的にボランティア活動に取り組んでいくという佐原さんに、これまでのボランティア活動で感じたことや、今後の活動で期待していることなどを話していただきました。

これまでどのようなボランティア活動に参加されてきたのですか?

 最初のボランティア体験は、2018年に知人に誘われて参加したゴミ拾いです。その後、東京2020大会のオリンピック・パラリンピック両方にフィールドキャストとして参加しました。私の仕事が看護師ということもあり、メディカルボランティアを担当しました。

ボランティアをやってみてどのような感想を抱きましたか?

 どの現場もとにかく楽しかったです。他のボランティアの方々がとても友好的で、私のような初心者に対しても笑顔で迎えてくださったのが嬉しかったです。また、皆が同じ目標に向かって連携して動くというのも魅力的に映りました。楽しいだけでなく、学ぶことも多かった気がします。

どのような学びがあったのですか?

 一番の学びは「人柄」ですね。皆さん、ニコニコと楽しそうに活動していらっしゃるのが印象的で、見ているだけで前向きになれるパワーをいただきました。ボランティアって「与える」ことだと思い込んでいたのですが、「与えられる」側になるとは思ってもみませんでしたね。それもあって、看護師の仕事で気が立った時などはボランティアの皆さんの笑顔を思い出して、イライラを鎮めるようにしています。なかなか思い通りにはいかないのですが、仕事って発想を変えるだけで楽しめるということはわかりました。少なくとも視野が広がったとは思います。

この度、TOKYO 障スポ&サポートにご登録いただきましたが、もともと障害者スポーツに関心があったのですか?

 そうですね。初めて障害者スポーツに触れたのが3~4年前。身体に障害をお持ちの女性に誘われて、障害者スポーツの大会を観戦しました。私自身、看護師として回復期リハビリテーション病棟で働いたことがありますので、障害のある患者さんを多く見てきましたが、障害者スポーツからはその時とはまったく違う印象を受けました。

回復期病棟の患者さんと障害者スポーツをされている方とではどんなところが違っていたのですか?

 患者さんの場合は受傷されてそんなに日が経っていないこともあり、結構気持ちに浮き沈みがあるんです。リハビリでまずやるのは、達成可能な目標を定めること。それをクリアするという小さな成功体験を積み重ねることで、前向きな気持ちを取り戻していくのですが、障害者スポーツをされる方はそのステージを既に乗り越えられていて、人生の目標やアイデンティティを確立されていますよね。ですから、障害者スポーツは私にとって全く新しい世界でした。

パラリンピックではさらに違う世界を見ることができたのでは?

 そうですね。私はゴールボールとパラテコンドーの競技会場に配属されたのですが、試合を間近で見て驚いたのは、選手の皆さんの動きが健常者となんら変わらないどころか、普通の健常者以上に俊敏であったこと。このレベルに到達するのにどれだけ練習を重ね、どれだけ感覚を研ぎ澄ませてきたのか……それを想像すると胸が熱くなりました。私は体育大学の出身で、オリンピックに出場された先輩もいたので、選手の皆さんの苦労が手に取るようにわかりました。そこで、もっと障害者スポーツに関わりたいと思うようになり、TOKYO 障スポ&サポートに登録させていただきました。

ご登録後に東京都障害者スポーツ協会のボランティア講習会へ参加されたそうですが、その時の感想をお聞かせください。

 車いすバスケットボールで使う車いすへの試乗をはじめ、座学だけでなく実技があったのがすごく良かったです。完全ではないかもしれませんが、障害のある方の気持ちをある程度は理解できたのではないかと思っています。本当に貴重な経験をさせていただきました。

これからいろいろなボランティア活動に参加されると思いますが、期待していることはありますか?

 車いすを押す、歩行を介助するなど、回復期病棟でやっていたことを生かしながら、新しいことをどんどん学んでいきたいと思っています。車いすを押す行為一つ取っても、病棟とスポーツではやり方が異なってくるでしょうし。あとは、ボランティアっていろいろなバックグラウンドをお持ちの方が集まるので、普段会えないような方と知り合えるのも楽しみです。

先ほどのお話にあった「人柄」以外でもいろいろと学べそうですね。

 これまでのボランティア活動で素晴らしいと思ったのは、皆さん、誰も指示していないのにささっと自分の役割を見つけて自発的に動いていたところです。それでも統率が取れているのは、皆さんの意識が高いのでしょうね。あとは、全体のことを考えて動くという、日本人ならではの性質もあるかもしれないですね。また、誰でも意見を言いやすい雰囲気が自然にでき上がっていたのも素敵でした。誰かが提案すると「とりあえずやってみようか!」という流れになって。看護師の仕事は指示されてから動くのが普通ですから、とても新鮮に感じられました。

ボランティア活動をやろうかどうか迷っている方がいらっしゃったら、どのような言葉をかけたいですか?

 私もかつては、ボランティアに興味はあるもののなかなか行動に移せない人間でした。普段の仕事で精いっぱいで、ボランティアに時間を割こうという気持ちの余裕が持てなかったんですね。結局、何年もくすぶり続けてようやく実行することができました。ですから、「やってみたい」という考えが浮かんだら、すぐに動かなくてもいいので思いだけは大事にしてほしいですね。私もやっと第一歩を踏み出したばかりです。まずは無理のない程度に、年4回くらいのペースで始めてみたいと思っています。

【インタビューを終えて】

 東京2020大会の開催が決定した時点で、ボランティアへの応募を決めたという佐原さん。体育大学出身の彼女にとって「オリンピック」がいかに特別な存在なのかを、楽しそうに話してくださいました。さらに、パラリンピックで見た選手たちの素敵な素顔を嬉々として語るなど、言葉の端々からスポーツ好きであることが伝わってきました。同時に、何事もポジティブに捉えられる明るい性格であることも。ボランティア活動は「与える」のではなく、「与えられる」と実感された佐原さんですが、これからも前向きにパワーを「与え」「与えられ」て周囲を盛り上げてくれるのではないでしょうか。