障害者スポーツボランティアとは

2022.02.08公開
ボランティアは自分の価値を知る良いきっかけ。生き方が大きく変わりました
端山 博之さん

 ボランティア活動にご興味のある方に向けて、先輩ボランティアの方々の活動への想いや実際の活動内容とともに、魅力をお伝えします。

 今回は、東京2020大会のフィールドキャストとして活動したことを機にボランティアの魅力に目覚めたという端山博之(はやま ひろゆき)さんに、初めてのボランティア活動で感じたことや、その後のご自身の変化などについて語っていただきました。

端山さんがボランティアに興味を持ったきっかけを教えてください。

 勤務先の大学で学生にボランティア活動を紹介する部署ができ、そこで勤務することになったのがきっかけです。とはいえ私自身はボランティア未経験でしたので、他人に勧めるからにはまずは自分でやってみなければと。そこでフィールドキャストに応募し、5日間男女の車いすバスケットボール競技のお手伝いをしました。

具体的にはどのようなお手伝いをされたのですか?

 競技会場である武蔵野の森総合スポーツプラザで、選手が使用する競技用車いすやスペアタイヤを控室やサブアリーナに運搬する仕事をしました。そこでは選手と直接関わることはありませんでしたが、出場チームのスタッフから指示を受けて動いていました。

フィールドキャストの体験はいかがでした?

 競技用車いすは想像以上に動きがスムーズで、ちょっとした傾斜でもスルスルと進んでしまうんです。なので、適切な置き場所を考えなければいけませんでしたし、破損はもってのほかですからトラックから降ろす際はフィールドキャスト同士でコミュニケーションを取りながら慎重に渡していました。

 ちなみに、国によって車いすの扱い方が違っていたのが興味深かったです。例えば、女子の車いすバスケットボールで優勝したオランダチームは他国チームよりも扱い方が丁寧で、積み方や並べる方向についても細かい指示がありました。決勝戦の戦いぶりを見るとオランダチームの動きがすごく繊細だったので、普段の姿勢が試合にも表れて、それが優勝に繋がったのではないかと。自分の中ではすごく合点がいきました。

舞台裏を知ることができるのもボランティアの醍醐味ですよね。今回の経験でボランティアへの印象は変わりました?

 思った以上に自分が役に立つ場面がある、という印象でした。今回はいろいろな言語が飛び交う現場だったのですが、フィールドキャストの中には外国語が話せる方もいましたので、外国の方への対応に慣れていない人でも問題なく業務ができる環境でした。そんな中、業務を通じていろいろな人と自然にコミュニケーションを取れたことが、自分にとって一番の収穫です。年齢も職業も最後までわからなかったのですが、一緒に記念写真を撮るくらい打ち解けた方もいました。

障害者スポーツに触れたのも今回が初めてだったのですか?

 そうですね。母が特別支援教育の仕事をしていたので、知的障害のある方と接したことはあったのですが、身体障害のある方や、そういう方々がスポーツをしているところに直接関わったのは今回が初めてでした。

 実は、車いすバスケットボールには以前から興味があったんです。私自身バスケットボールが好きですし、車いすバスケットボールを題材にした大好きな漫画の影響もあって、間近で見てみたいという思いがありました。ですから、男子の決勝戦に関しては間近で観ることができたのですごく嬉しかったです。

今後も障害者スポーツのボランティアをやってみたいですか?

 はい、機会があれば裏方としてお手伝いしたいです。球技全般が好きなので、車いすラグビーやボッチャ、ゴールボールなどにも携わってみたいですし、コロナが落ち着いたら観客としていろいろな試合会場に足を運びたいと思っています。

ボランティアへの入り口は人それぞれだと思いますが、端山さんの好きな競技から考えるというのも非常に説得力がありますね。

 私の場合はまず興味のある試合を探し、そこから自分が携われるかどうかを考えるという順序になるでしょうね。あとは活動場所も気になります。遠すぎると現場に着いた時点でヘトヘトになってしまいますし、週1回しかない休日を有効に使いたいので、やはり体力的に無理のない場所でないと。サポートする立場なのにサポートされてしまっては本末転倒ですから。

ボランティア未経験の方に向けて魅力を伝えるとしたら、どんなことを言いたいですか?

 先ほどもお話しましたが、ボランティアは自分の価値を知るきっかけになると思うんです。そこで自分への見方が変われば、日常生活も変わってくるのではないでしょうか。私自身に関していえば、「誰かの役に立つ」という楽しみが一つ増えました。専門知識がなくても、それこそボランティア経験がなくても自分には何かしらできることがある。そのことが自分の大きな支えになりましたし、自分を他人のために生かすことは楽しいことだ、ということも知りました。

 あとは、以前よりも周りが見えるようになりました。電車に乗っていると、ヘルプマークやマタニティマークを付けている方をより意識するようになりましたし、優先席に座っている方を見ると「困ってないかな?」「手伝いが必要じゃないかな?」と、ついついのぞき込むようにもなりました。

手伝いをお願いしたくても自分からはなかなか言い出せない方もいると思うので、端山さんのような方がいると頼もしいですね。

 何かあればすぐに手を差し出せるようにしておこうと考えるようになりました。ですから、道を歩く時や電車の中ではイヤホンを外すようにしています。以前は音楽を聴きながら移動していましたが、それだと声を掛けられても気づかないじゃないですか。よく見て、よく聞いて、周りのことをもっと知りたい、感覚を閉ざすのが嫌だという気持ちになりました。人から「ありがとう」と感謝される喜びを知ってしまうと、もっと体験したくなるんでしょうね。

ボランティア活動をしていなくても、普段からそういう意識を持っている方が増えると良いですね。

 本当は手伝いたいけど、恥ずかしくて言い出せない方もいると思います。ボランティア活動に関しても、興味はあるけれどコミュニケーションへの苦手意識から躊躇している方がいると思いますが、活動においてはまずは担当者からの指示に従って動くことになります。周りの人とのコミュニケーションへの不安を理由に参加をやめるのではなく、活動に興味があればとりあえず参加してみることをお勧めします。やっているうちに自然とコミュニケーションが取れるようになると思いますで、恥ずかしがらずにぜひトライしてほしいです。


 車いすバスケットボールの試合で、転んでも速攻で立ち上がろうとする選手の姿に深い感銘を受けたという端山さん。フィールドキャスト体験を通じて誰かの役に立つ楽しみや喜びを知り、加えて今後は是非、色んな障害者スポーツの試合を生で観戦したい、とのことでした。「自分もできるかもしれない」「とりあえずやってみようかな」──聞く人をそんな気にさせる、ボランティアに対する気負いのない話しぶりと清々しい表情が印象的でした。